ベンゲット州トゥブライ町コロス集落

台風被害と緊急支援

 

コロス集落は、バギオ市から車で北に約1時間半ほどの距離にあります。人口は約500名、約130世帯。標高は700~1000m。おもに先住民族であるイバロイ族が暮らし、多くが農業と砂金取りを生業としています。長年の森林破壊による年間を通しての水不足と、急峻な地形、痩せた土地など、農業を営む環境としては厳しい地域でもあります。

 

コロスは200910月の大型台風ぺペンによる土砂崩れで、家屋1軒が完全に流され、16軒が全半壊し、51軒が暮らすエリアが危険地域に指定され、被害を受けた世帯や危険地域と指定されたエリアの世帯は、集落内の再定住地に移住するように指導されました。NGOや政府の支援による家屋の再建設プロジェクトが行われました。しかし、多くの人は以前の家に暮らし、台風や大雨などの災害が迫ったと感じた時に避難場所として再定住地の家を使っています。CGNは土砂崩れの後、緊急支援として野菜の種や農業用ホースを配布する活動を行いました。

 

コーヒーのアグロフォレストリー栽培

 

栽培緊急支援活動の後も継続的にコロスの人たちをサポートするため、CGNは2010年より認定NPO法人「WE21ジャパン(神奈川県)」の現地パートナー団体として、コーヒーのアグロフォレストリー栽培事業を開始しました(かながわ民際協力基金助成)。 

コロス集落では、アグロフォレストリーの手法(森林農法)でコーヒーを他の樹種(アルノス、カリエンドラ)と混栽しています。アルノスやカリエンドラはコーヒーよりも早く成長し、コーヒーに適度な日陰を与えます。また、これらの樹木は、窒素を土壌に固定し、土地を豊かにしてくれます。また、土砂崩れの被災地や水源地などには、竹も植樹しました。これら森林再生の取り組みは、土壌流出の防止、水源の保護につながります。 

 

コロスにあるCGNモデル農場の木酢採取施設
コロスにあるCGNモデル農場の木酢採取施設

有機農業への取り組み

 

コロスでは水の確保が難しく、土地が痩せているため、化学肥料と農薬を大量に使用し、安価で取引される野菜栽培による収入に頼っています。しかし、化学肥料や農薬は土壌や生態系を破壊し、また長期使用による農民の健康被害を引き起こします。また、化学肥料や農薬は決して安価ではありません。被災経験を経て、コロスでは畑を復興させ農業生産による収入を得て自立を図りたいという機運が高まりました。そのために化学農法を脱却し、環境に悪影響を与えず、また高い農業資材を投入しないで労働に見合った収入を得たいと、有機農業への関心が高まりました。CGNでは、地元にある資材を利用した竹酢液採取施設をモデル農園に設置しました。木酢液採取施設を11世帯が設置し、有機栽培のために木酢液を利用し始めました。また、CGNでは、堆肥、ぼかし肥、ミミズ堆肥の作り方など、有機栽培に役立つ技術指導も行いました。2011年11月に住民たちは、COGA (Coroz Organic Growers Association-コロス有機栽培農家組合)を設立し、有機農作物の販売にも取り組み始めました。

 

 

WE21ジャパンの継続的なサポートを受け、CGNはコロス集落でコーヒーの植樹と栽培指導を続けています。山火事が何度か起こり収穫期を迎えたコーヒーの木が焼失するなど不幸な出来事もありましたが、村人たちは辛抱強く栽培を行っています。

2014年度には 山梨県清里のキープ協会のパートナーとしてコロナ集落のお隣りのマムヨッド集落にも事業を拡張しました。マムヨッド集落でもは2009年の台風による大雨で大きな土砂崩れがあり、村全体が居住には適さないとされましたが、イバロイ先住民の村人たちはなんとか村を守ろうと、土壌流出地域における植樹とともに、アグロフォレストリー(森林農法)によるコーヒー栽培を行いました。約26,000本の植樹を実施し、そのうち9,000本ほどがアラビカ・コーヒーの苗木です。

 

 

CGNでは、アンバサダー村で地域全体の環境保全に対する意識を高めるために小学校や保育園で子供向けの環境教育ワークショップも行っています。また、2016年には水不足解消のため、WE21ジャパンのサポートを受け、水供給システムも建設しました。2016年からはコーヒーと有機農業指導を隣のタベヨ集落に拡大し、周辺地域も含めてコーヒーを中心とした持続可能な暮らしのあり方を提案しています。

 

山火事で焼失した植林地
山火事で焼失した植林地

WE21のコロス集落のサポートは2020年3月でいったん終了しました。試行錯誤を繰り返しながら継続してきたアグロフォレストリー(森林農法)によるコーヒー栽培は、ようやく住民たちにとってあてになる収入源となったといえるでしょう。長期となったプロジェクトの最後には収穫物を貯蔵する倉庫、作業場の建設、そして自助努力によってコーヒー栽培を継続していくための苗場が作られました。

この事業を10年間率いてきたフェリーさんは、ベンゲット州を代表するコーヒー農家、有機農家として広く知られるようになりました。フィリピンのほかの地域で行われるコンファレンスにも頻繁に招待され、コロス集落での経験を共有しています。

CGNスタッフもこの事業で実に多くのことを学びました。アラビカコーヒーの品種、病害虫対策、苗木作りのコツ。。。。。また、植樹ツアー、環境教育ワークショップ、収穫サポートなどで多くの人が、この台風で大きな被害を受けた小さなコミュニティを訪ね、村人たちとともに多くの経験を共有しました。

事業終了後は、森林農法によるコーヒー生産者とフェアトレードコーヒーの消費者という関係でつながり続けることが望まれます。