山本博文の北ルソン・コーヒー探訪記①

北ルソン探訪のはじまり

 フィリピンへ来てようやく3ヶ月が経ったその日、ボクはバギオ市という場所を出発しボントック市という場所へ向かった。電車はない。バスである。いつから使っていらっしゃるんですか?とお尋ねしたくなるほど、ボロッボロの座席に腰をかける。固い。これで長旅はきついぞと思うものの、どうしようもない。どの席も同じようなものである。出発。

 バギオ市は、首都のマニラから、バスで6時間ぐらい。距離にすると300キロぐらい。そして、ボントックへは、バギオ市から5時間半ぐらい。遠い。このバギオ市から、ボントックへの道は、ずーーっと曲がりくねった山道。バギオ市の標高が1200メートルぐらいで、そこから2200メートルまで約3時間かけて登り、そこから、ボントックがある標高800メートルまで下がる。左右だけじゃなく、タテの移動も随分である。カーブの度にフィリピンが嫌いになる。もぅちょっと勘弁してくださいッ!と、腰の痛さが限界に近づいた頃、ボントックへ到着。ホテルを探し、早々に床に付いた。

 翌朝、約束通りの時間にCGNの反町さんが迎えにきてくれた。これから行くところが目的地である。ボントックは、ただの落ち合うポイントである。まだ、先は長い。目的地の名は「カダクラン」。ここから、その場所へは全く舗装されていない道を行く事になる。もちろん曲がりくねった山道。うーむ、腰が爆発してしまうのではないかとワナナキながら、出発。

 距離にすると50〜60キロぐらいしかない道無き道を、結局5時間近くかけて到着。満身創痍である。あれは、やっぱり道じゃない。途中なんども地滑りの起こった地点に遭遇した。しかし、景色に関しては、まさに「絶景かな」。写真の通りである。この景色に、随分と助けられた。

 今回、このカダクランに来たのは、2010年から2011年にかけて行ってきたCGNの活動の状況確認を行うためである。もちろんボクは、参加していない。コーヒーが好きなので、興味本位での参加。

 このカダクランでは100名を超える人がこのコーヒー事業に参加している。数千本に及ぶコーヒーノキの植林を行い、今年から徐々に収穫が始まるらしい。コーヒーは、野菜のように植えたらその年に収穫できるものではなく、約3年かかる。もちろんこれは「種から」の場合で、前回の事業では、1年ほど成長した苗木を植林しているので、昨年から徐々に収穫が始まっている。

 100名以上のコーヒー栽培従事者をまとめるこの地域のリーダーは、アシュレイさんという50代半ばの笑顔がすてきなおじさま。コーヒー栽培に対する意欲がとっても強く、数多くのセミナーに参加し、現在では、セミナーの講師として各地域に呼ばれたりする人望の厚い方。

 到着して早々に、さっそくアシュレイさんのコーヒー農園を見せてもらう事にした。もちろん、このカダクランは山の中にある。

 つまり、農園も山の中にある。随分な急斜面。これは道でしょうか?と疑ってしまうような道というか、比較的地面の素肌が見えている場所を登るノボルのぼる。太ももが燃えるように熱い。「ほら、もうすぐだから、頑張って」と笑顔で声援を送るアシュレイさんは、全く疲れている様子がない。へとへとになりながらも、この山の自然の豊かさに感動を覚えた。

 コーヒーは立派に育っており、今後の収穫量もぐんと増えるだろうとのこと。コーヒーの香味に関しても、自然の豊かさ故、土壌が肥沃で、とってもおいしいコーヒーができるようだ。人里離れたこの地域から、世界へたくさんのコーヒー豆が輸出される事を願いつつ、命の危険を感じるような急斜面を下山した。

 夜は、メンバーの一員の、サマさんの家へ宿泊させてもらった。奥さんと娘さんと3人暮らし。一家団欒の中に日本人が一人。なんだか申し訳ないなという気持ちでいると、「何にもないけどさ、自分の家に居るように過ごしてね。まぁ日本の家はこんな感じじゃないよね」と大きな笑顔でボクの気持ちを和ましてくれた。皆とても親切に、そして明るく迎えてくれた。

 このカダクランでは、栄えた町からたった60キロ程度しか離れていないのに、電気が通っていない。人工的な光がない家の中で、ゆらゆらと、しかし、力強い暖炉の明かりが部屋全体を包む。ブルームと呼ばれるこの地域伝統の箒を作る仕事もしているサマさんは、この日、ボクのために3つも作ってくれた。ゆらゆらと照らす炎と、素早く、しなやかに動くサマさんの指使いがなんとも言えない情緒を醸し出していた。

 一服をしようと、外に出る。少し肌寒く感じながらも、片手にコーヒーカップを持ち、紫煙をくゆらす。何気なく空を仰ぐと、呆気にとられてしまった。とてつもない数の星である。十方向に広がる満天の空を仰ぎながら、こういう風にも人は生きる事ができるのだなと、心から実感をし、改めて、来て良かったと感じた。

 翌朝、サマさんと娘さんと美しい水田の間を散歩した。昨日といい、翠の豊かさに気持ちが踊る。この地域のコーヒー事業がきっとうまくいきますようにと願いながら水田を横切った。